公開中の映画「ドントブリーズ」を観てきました。
予告編を見て面白そうだったので楽しみにしていたのですが、期待通りとても面白い映画でした。大作でもないし、人は少ないだろうと思っていたのですが、意外に人が多かったのでビックリ。
監督によると、この映画はホラー映画ではなくスリラー映画なのだそうです。演出はホラーっぽいものが多いのですが、ただホラーっぽいだけでなく、タイトルのとおり「息もできない」静けさの迫力というか、音を立ててはいけない恐怖感の演出が非常に印象的でした。
高校生くらいの若い人も多かったのですが、「キャー」とか「ワー」とか悲鳴も上がらず、ポップコーンのガサガサいう音もせず、息を殺してスクリーンを見詰める緊張感みたいなものがあったのも、演出によるものが大きかったのではないかと思います。
あらすじは、セコい窃盗で小金を稼いでいる不良3人組が、大金を持っているという噂の老人の家に忍び込み、一攫千金を狙おうとするもの。もちろん、すんなり成功するはずはなく、盲目であるにも関わらず、元軍人で戦闘能力の高い老人にリーダー格が瞬殺されてしまいます。残る2人はなんとか屋敷から逃げ出そうとするが老人の異常な秘密を発見してしまい・・・という感じです。
この映画の面白いのは、単に「怖いおっさんのいる屋敷から逃げ出せるか」という映画ではなく、いつのまにか、悪役のはずのおっさん(とその愛犬)の方に感情移入してしまっているところです。気付けば、「逃がすな!」「追え!」「そこだ!噛め!」みたいに心の中でおっさん(とその愛犬)を応援していました。
これは重要なネタバレなのですが、おっさんは事故で娘を亡くしており、そのショックから抜け出せない生活を送っています。しかも、娘を殺した加害者である若い女性は、お金の力で刑務所行きを回避してしまいました。その罪を償わせるため、女性を地下に監禁し、娘の代わりとして自分の子供を出産させようとしていたのです。
たしかに、このおっさんのやっていることは異常だし、犯罪なのですが、しかしそれでも、同時に同情もしてしまうのです。おっさんの異常性もわかっているのですが、それでも同情せずにいられないこの葛藤。自分が同じ境遇になったら、どうなるだろうという不安。
一方で、不良3人組のほうはというと、境遇には恵まれないところはあるものの、だからといって性質の悪い窃盗を繰り返す理由にはならんだろ、とあまり同情の余地がありません。
恐らく、おっさんに多少なりとも共感できるかどうかで、見方がだいぶ変わってくる映画だと思います。「この気持ちは親にしかわからない」とおっさんが訴えかけるシーンがありますが、「俺にはわかる、わかるぞ!」と心の中で叫びました。もちろん、許される行為でないこともわかっているのですが、同じく娘を持つ身としては、おっさんの哀しみがとてもよく理解できるのです。
そこからは、ハラハラしながらおっさんを見守りました。
だいたい、この手の映画では、最後にヒロインが怖いおっさんを倒し、無事に脱出します。しかし、それではおっさんが気の毒すぎる。なんとか頑張れ! おっさんと犬!
ちなみに、おっさんの唯一の味方である犬(たぶんロットワイラー)は、最初こそ薬で眠らされるという失態を演じますが、目覚めた後はおっさんを援護し、縦横無尽の活躍を見せます。良い犬です。
果たして不良たちは屋敷から逃げ出せるのか? それともおっさんと犬の勝利か?
スリラー好きの方は、ぜひ映画館へどうぞ。